ニスのきいた床が、陽光を強く照り返している。
作業を中断し、開け放たれた窓の外へ目を向けた。群青色の空に、バカでかい入道雲が湧いている。
「おおぃ、テレビの設置場所って、この辺でエエか?」低い関西弁が会館内に響く。
「いいだろ」僕は床に転がってあるビデオデッキを覗き込んだ。「おい、誰だよ、ベータなんか持って来たやつは」
使い込まれ、表面の文字が消えたボタンを触っていると、テレビを運び終えた大野が、タバコを吸いながら近づいてきた。歩くごとに、床がミシミシ鳴る。三十を過ぎ、大野の腹まわりは年々成長しているようだ。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学
- 2006/05/04(木) 13:27:50|
- 短編「水やり当番」
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その晩、学習塾の帰り、僕はこっそり小学校へ向かい、ブロック塀が崩れている箇所から校庭へ進入した。
夜の校舎は、眠っているように静かだ。僕はじっと耳を澄ませた。用務員室から、テレビの音と、人の笑い声が聞こえてくる。
懐中電灯をカバンから出し、朝顔の鉢へ向かう。自分の鼓動がやたらとうるさい。胸のあたりを何度かこぶしで叩く。
――落ち着け。ノブは、みんなを裏切ったんだ。だから……
大野に言われた言葉を、呪文のように繰り返す。僕は正しいはずだった。それなのに、懐中電灯を持つ手が震えて止まらない。
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- 2006/05/04(木) 00:32:46|
- 短編「水やり当番」
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ノブと別れ、僕は有頂天のまま家に帰った。
靴を脱ぎ捨て、階段を駆け上がり、部屋に飛び込む。そして、隠してあった大学ノートをベッドの下から取り出し開く。使い込んでヘロヘロになったノートには、自作の詩や、寝ている間に見た夢の内容なんかを、全部一緒にして書き溜めてあった。
新しいページを開き、そこに「アサガオ」と書き込む。その四文字をしばらくじっと見つめ、何も書かずノートを閉じる。速い鼓動はまだ収まらなかった。
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- 2006/05/03(水) 18:59:17|
- 短編「水やり当番」
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放課後の校庭は、どこまでも続く平面だ。石灰で描かれたトラックの上を、夏雲の影がよぎっていく。
透けるような青空を見上げ、僕は大きく息を吸った。――それでも、怒りはおさまらない。
「ひ、平林くーん」
頼りない声が、僕の神経を逆なでする。
苛立って振り返った。細長い影が、ヨロヨロとこちらへ向かって歩いて来る。
「何やってんだよ、ノブ!」
僕は、手に持っていた空のジョウロを振り上げた。
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- 2006/05/03(水) 18:03:15|
- 短編「水やり当番」
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